役員コラム

2019.07.09

初歌舞伎

㈱あさひ合同会計 中山 加壽子

 3月の終わりに初めて歌舞伎を見た。東京に行く時にはたいていコンサートを探すのだが、今回はめぼしいコンサートが見つからず、「それなら。。」と歌舞伎を見ることにした。銀座の歌舞伎座である。一度は行ってみたいと思っていたが今までなかなかその機会がなかった。  

 演目は 女鳴神(おんななるかみ)と傾城反魂香(けいせいはんごんこう)あまりメジャーな演目ではないようだ。何せずぶの素人。新幹線の中、にわか仕込みで知識を詰め込んだ。このごろの歌舞伎は一つの物語を通しで演ずるのではなく、いくつかの演目のハイライトを演ずること(見取り)が多いらしい。私たちが見る演目も見取りで、幕間の30分を挟んだ4時間半の長丁場である。

 「女鳴神」は織田信長に討たれた松永弾正の娘、鳴神尼が信長を恨んでその法力で干ばつを起こし、近くの大滝の滝つぼに龍神たちを封じ込める。しかし、身分を偽った信長の家臣(鳴神尼の昔の許嫁に似ている)に心を許し、だまされて龍神を解き放たれてしまう。怒った鳴神尼は恐ろしい化け物に変身し。。という話。

 また「傾城反魂香」は、絵師で言葉が不自由な又平と、対照的におしゃべりな女房のおとくが、師匠に免許皆伝の証である名字をと懇願するものの、断られ絶望して死を覚悟する。が、せめて自らの絵姿を残そうと手水鉢に自画像を描くと、その一念によってある奇跡が起り、名字を名乗ることが許されるという話であった。 演ずるは松本白鴎、市川猿之助。

 歌舞伎は格調高くとっつきにくいと思っていたが、実際に見てみると難しいどころか、たいそう面白い。話の筋も何やら艶っぽいものもあり、歌舞伎が大衆芸能から発しているのがよくわかった。 

 実は初めての私でも歌舞伎を十分楽しめたのには訳がある。わずか650円で貸し出してくれるイヤホンガイドである。舞台の進行に合わせ、あらすじや歌舞伎ならではの約束事を、タイミングよく伝えてくれる。決してうるさくなく、またこの間合いが絶妙なのである。「ここは静かに聞かせて欲しい」と思うところではちゃんと間をとってくれ、おかげで時代背景やそれぞれの所作の意味などをごく自然に理解することができた。

 イヤホンガイドは、「おもしろく、でもおもしろすぎてもダメ。情報は伝える。でも喋りすぎてもダメ。静か過ぎず、うるさすぎず。ツボを押さえながら、観客の腑に落ちる解説を作り上げていく」ことを第一に考え作られているそうだ。私たち税理士の仕事も同じだなと思った。「詳しく、でも詳しすぎてもダメ。正確に情報を伝えるが、しゃべりすぎて経営者の判断を邪魔してもダメ。静かすぎず、うるさすぎず、ツボを押さえながら税務の面からお客様が正しい判断をされるお手伝いをする」

 なかなか難しいがそういう税理士を目指したい。