役員コラム

2016.10.01

初 遍 路

㈱あさひ合同会計 取締役 古川 達也

平成15年6月、社員旅行中の私たちは足摺岬の突端にある金剛福寺で太平洋を眺めていた。眼前すべてが海という場所に立っている理由は、先代社長の「高知の足摺にある札所は遠いから皆で行こう」という一言。当時の私は何の知識もなく、「なんか亜熱帯のような変わったところ」という陳腐な印象しか持ち合わせなかった。この夏、再び金剛福寺に立つことができ、お遍路を教えて下さった亡き先代に感謝した。

以前から四国八十八ヶ寺巡礼に出たいと思っていたのだが、なかなかきっかけをつかめずにいた。閏年の今年は、八十八ヶ寺を逆から回っていく通称「逆打ち」をすれば、ご利益が倍にも3倍にもなるらしい。旅行会社のパンフでは、今年は60年に一度の丙(ひのえ)申(さる)なのでご利益MAX、お大師様に会える年と煽ってある。

伝承によれば、今から1200年ほど昔、衛門(えもん)三郎(さぶろう)という伊予の長者が、門前托鉢に訪れた汚い格好の僧に非道なことをしたため、子供が不幸にみまわれる。その僧が弘法大師だったと知った衛門三郎はお大師様に非礼を詫びるため、何度も1番から88番をめぐる「順打ち」をしたのだが、出会うことができなかった。お大師様の順路と逆に歩いていけば、どこかで出会えるのではないかと考えた衛門三郎は閏年丙申の年に阿波12番焼山寺のふもとでお大師様に会遇し、許しを乞うことができたという伝説。

ご利益3倍という煩悩のみで、出発を決めたのだが、作法も装備もわからない。そこで、旅行会社が企画するバスツアーに申し込みをした。ツアーでは「先(せん)達(だつ)」とよばれる遍路達人が初心者を指導して下さる。装備は、輪(わ)袈裟(げさ)・数珠・白衣(びゃくえ)・杖・頭陀(ずだ)袋(ぶくろ)を揃えた。納経帳・納め札・線香・ローソクなどはツアーについてきた。

7月2日早朝出発。ツアーは年配の方が多かったが、初めての若者や子供連れの家族旅行の方もおられるようで和やかな雰囲気だった。先達から参拝作法や遍路の歴史、札所の話などを聞き、雰囲気も盛り上がってきたころ香川88番大窪寺に到着。本堂とお大師堂でお経をあげ、祈願をする。ツアー2回で88番から76番まで巡り、先達から初心者クラスの作法を習得した後は、自車での区切り打ち。ナビを頼りに札所から札所をひたすら巡る。足摺岬38番金剛福寺から室戸岬の突端にある24番最御崎寺(ほつみさきじ)までの黒潮遍路は空と海のコントラストが絶景。何度も何度も岡山から瀬戸大橋を渡り、8月28日徳島1番霊山寺(りょうぜんじ)に辿り着いたときには、ちょっと泣きそうになった。176回目のお経をあげ、逆打ち1回目の証明書をいただき無事結願。9月には高野山奥の院にお礼参りもできた。ナビに騙され身動きのとれない旧道に迷い込んだり、540段の石段にやられたり、徳島の友人にお接待を受けたりといった珍道中記はまたの機会に紹介したい。

住職から、「ご利益は保証されないが、八十八ヶ寺すべてに巡拝できたら何か変わることができますよ」というお説法をいただいた。それは、信じる。すぐにでも、順打ちに出発したいほど、あの達成感にハマっている。ライフワークを一つ見つけられた。